──透明感のある深い青っていうのは難しそうに思えるんですけど。

いや、そんなこともないですよ。難しいっていうのは、こういうことをやるために筆で塗ったりなんかするとこが難しい。出そうと思ったらすぐ出るんや。要するに、ガラスと一緒だから。釉薬なんていうのはもうガラスと兄弟かいとこ同士か一卵性双生児か、そんなもんなんや。出せるんだけど、それを焼きものに塗ったり固めることが、邪魔くさいんですよ。

──グラデーションは釉薬のたれ具合で表現されているんですか。

そうそう。単にたれて起きる。彩流って名づけてるのはそれなんやね。
薄ければ薄いとこに入ってくるガスの量と、濃いとこに入るガスの量は必然的に違ってくるわけやから、それによって起きるグラデーションて、実にまあ面白いなあと。
だから、焼いて戻して、また酸化に焼いたりとか、そういう戻し焼きもしたりするんです。そうすると、濃く出しといて、薄く戻すから、逆に言うともっと赤がぱっと出たりするわけ。
理論的にはそんなもんやね。で、土を変えたり。いまは半磁器で3種類の粘土、九谷と、あと京都、信楽系の粘土、鉄分を何パーセントにするか。ずーっと初期の頃はね、鉄分が15パーセントやったから、たとえば同じ銅を入れてもより緑っぽいんですよ。鉄と影響すると、緑になりやすい。ところが今鉄分を7パーセントくらいまでしてるから、ブルーに近い青になるんや。こういうふうにやっぱり、そのときの気持ちみたいなもんやね。流行やね。流行も必要やよね。不易流行です。

──素地によって発色が違ってくるんですね。

違ってくる。私はもう3度か4度、素地変えてます。だからそれで違うし、あと、昔は強還元が好きで、だから昔の作品見るとものすごく黒いですよ。
で、今明るくなってきてるのは、素地も変えたし、還元もほぼ中性に近いんやね。だからときどき御本(ごほん:赤味の斑点)が出る。ぽっぽっと。要するに鹿の斑点みたいに、そういう御本が出るのは、だいたい中性だと出やすいんですよ。だからこれ綺麗に出てるよっていうと窯は中性に近い。どんだけっていうのは難しいけどね。ま、火の色やね。

──全国で個展をされてるようですが、地域によって反応が違いますか。

青い色って、基本的に北の人が好きなんやね。要するに北陸から北の人は、青が好きや。
北陸っていうのは黄緑がいい、だから、吉田屋とか、そういうものが。
で、南へ行くほど赤がいいんや。柿右衛門の赤とか。備前の赤焼だとか。
最初の頃、南でやるとほとんど惨敗やったけどね。ただ日本ていいのは、南でも雪が降るくらい寒くなるでしょ。だから冬にやるといいんですよ。
青って、冬はいいのよ。綺麗に見える。

──光の薄暗い感じがいいんですかね。

そう。だから北海道で見る青はものすごく綺麗よ。だって、摩周湖やら阿寒湖って、色がきれいっていうでしょ。青が神秘的な色に見える。
人間の心を惑わすのは、北。南行ったって惑わないんだよ。
地球ってそうでしょ。青は分散して、両極に一番たまるんだもんね。赤はストレートに入ってくる。分散された分だけ層が厚くなるから、それを北へ持っていくと、同じ青が溶け込んでいく。だから北海道で真冬の1月にやったとき、一番よかったですよ。

──青一筋で来ているんですか。

そうやね、今はね。前はいろんな色を実験したけど。茶色とか。縄文土器が好きで、縄文土器の色やってみたりとか。好奇心はあるけども、色はいまんとこ変えようって気はないかな。
昔、青だけでいろんなこと表現したかった。で、そのうちに、青を表現するために、まわりにどんな色を出したら青がより青に見えるかなっていうことで、たとえば鉄を塗ってみたり、マンガンとかで対比をして、で、いまは白黒で幾何学模様のもやってるけども。要するに、まったく青の世界と違うことをやりながら、その中に青を入れて、あっ、青ってどこに置いてもこう見えるよっていうような表現方法ができれば、やってみたいな。


《丸文四方皿》

だけどまあ、いろんな青があるんですよ。で、そのどれかを、そのときによって、いま気分的に言えば、明るい、軽い色っていう。だから常に変わってますよ。重く、深い青をやってみようとか。そうしないと、同じことをやってても、なかなかね。常に変わってるんやね。自分は常に変わってると思ってるから。


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